年金分割の手順

協議離婚の際には、年金分割の手続きをしておいた方が良いことがあります。
年金分割についての説明は、いろいろな本やサイトに詳しく書いてありますが、読んだだけではなかなか理解しにくいところが多いと思います。

ここでは、実務上どういう手順で年金分割を行っているかという観点から説明しますので、年金分割のイメージを掴んでいただければ幸いです。

年金分割は、大きく3つの段階に分かれます。

第1段階 年金分割のための情報提供請求

年金分割をする場合には、まず、以下の手順で日本年金機構に年金についての情報照会をする必要があります。
手続きの流れは、次のようになります。

①年金事務所で「年金分割のための情報提供請求書」を提出

お住まいの地域の年金事務所へ行って「年金分割のための情報提供請求書」(※書式は年金事務所にあります)を提出します。
このときに、以下のものが必要になります。

  • 戸籍謄本
  • 本人確認書類(免許証など)
  • 基礎年金番号がわかるもの(年金手帳等。相手の基礎年金番号は不要。)
  • 認印

②年金機構から「年金分割のための情報通知書」が届く

①の後、2~4週間程度で、自宅住所宛に「年金分割のための情報通知書」という書面が年金機構から郵送されてきます。
この情報通知書には、年金をいくらからいくらまでの割合で分割できるかという情報が記載されています。
上限は50%であることは全ての夫婦が同じですが、下限はそれぞれ違います。
通常は50%で分割するため、下限の数字は参考までに見る程度になりますが、一応この通知書をもとに夫婦で話し合いをして年金分割の割合を決めるという建前になっているため、最初に取り寄せる必要があります。

 

第2段階 年金分割の合意

年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
簡単に言うと、合意分割するには夫婦間の合意が必要で、3号分割するには夫婦間の合意は要りません。
ただし、3号分割ができるのは、平成20年4月1日以降、被扶養配偶者となっていた期間(第3号被保険者だった期間)のみになります。
それ以外の部分について年金分割するには、合意分割の手続きが必要ということになります。

例1)平成20年4月1日以降に結婚し、離婚するまでずっと夫の扶養に入っていた方
→離婚後に1人で年金分割請求ができるので、年金分割の合意は不要

例2)平成20年4月1日以降に結婚し、共働き期間がある方
→共働き期間について年金分割するには夫婦間の合意が必要

もしスムーズに年金分割の合意ができないようなら、家庭裁判所に調停を申し立てる方法がありますので、年金分割をあきらめる必要はありません。

 

年金分割合意書の作成方法には、次の3パターンがあります。

ア.年金事務所で年金分割合意書の書式をもらってそれに双方が署名捺印する。

イ.双方が署名捺印した年金分割合意書を作成し、それに公証役場で公証人の認証(私署証書認証)を受ける

ウ.年金分割に関する条項の入った公正証書を作成する

 

アの場合には、離婚後に夫婦2人揃って年金事務所に行って手続きしなければなりません。

イの場合には、離婚後に公証人認証済みの年金分割合意書を持って年金事務所に行けば、1人で手続きできます(※ただし、公証役場には原則として夫婦2人で行く必要があります)。

アの年金事務所行きもイの公証役場行きも代理人を立てることは可能ですが、1人の人間が夫婦双方の代理人を兼ねることはできませんので、必ず2人で行かなければなりません。

ウは年金分割合意書を公正証書にする方法で、公正証書にしておけば、イと同様、離婚後は1人で年金事務所へ行って手続きできます。
養育費等の支払いのため公正証書を作るなら、その公正証書に年金分割についての条項を盛り込むことも可能です。
ただし、年金分割については公正証書とは分けてイの私署証書認証にした方が、公証役場に支払う手数料が安くなりますので、当オフィスでも通常はそのようにして手続きしています。

 

第3段階 標準報酬改定請求

年金分割の合意ができたなら、年金事務所に行って標準報酬改定請求という手続きをしなければなりません。
第2段階で作成した年金分割合意書を持って年金事務所に行き、「標準報酬改定請求書」(※書式は年金事務所にあります)を提出します。

上にも少し書きましたが、公証人認証済みの年金分割合意書、公正証書、調停調書(※調停により年金分割の合意をした場合に家裁で作成されます)などがない場合には、夫婦揃って年金事務所に行く必要があります。
3号分割のみの人は、年金分割合意書も要りませんし、1人で行ってOKです。

年金分割の合意までは離婚前にやってしまってもかまいませんが、標準報酬改定請求は離婚届を出した後でないとできません。
また、離婚後2年を経過すると、手続きできなくなってしまいます。

なお、標準報酬改定請求を行う際には、夫婦それぞれの戸籍謄本が必要です。
離婚前は同じ戸籍に入っていますので戸籍謄本は1通ですが、このときは既に離婚後になりますから、戸籍謄本は2通に分かれています。
1人で年金事務所に行く場合には、自分の戸籍謄本だけでなく、相手の戸籍謄本(※発行後1か月以内のもの)を取り寄せた上で、持参する必要があります。

標準報酬改定請求書を提出すると、年金機構から標準報酬改定通知書が夫と妻それぞれに届きます。
これでようやく年金分割は完了ということになります。

離婚後2年以内にここまでの手続きをやっておくと、実際に年金が支給されるときに、分割された分も受け取れることになります。

年金分割の手続きはわかりにくく、段取りを考えてやらなければ無駄な時間がかかってしまうこともあります。
当オフィスでは、年金分割をサポートします。
年金事務所にはご本人で行っていただくことになりますが、公証役場は代理出頭も可能です。
年金分割合意書の作成や認証手続きはもちろん、書類の取り寄せ等、代行できる部分は代行いたします。
協議離婚では他にもいろいろな手続きが必要になりますから、どのタイミングで年金事務所に行くべきか、用意しておいた方が良い書類など、トータルな視点からアドバイスいたします。